「痰が絡む」のは体からの危険信号?痰が絡む原因や考えられる病気、そして上手な痰の出し方
皆さんは、痰が絡んでなかなかすっきりしないという経験はありませんか?
呼吸器系の病気の中でも咳と1位2位を争うぐらいよくある症状としてあげられるのが、痰が絡むという症状です。
しかし、痰の役割やメカニズムを知らないという人も多いのではないでしょうか。
今回は、そちらを説明しつつ考えられる病気などについて話していきます。
この記事の目次
【痰について】痰とは何?痰の役割って?
痰とは、呼吸器系でつくられ咳こむことによって外に出される粘液のことをいいます。
痰は、実に約94%が水です。
その他には、ムチン(ムコタンパク質)、免疫グロブリン、脂質などが約5%を占め、残りは電解質と細胞遺残物で構成されています。
ムチンには、シアル酸という酸性の糖とフコースという中性の糖があります。
正常時は、シアル酸の割合が多いためサラサラしている痰ですが、ウイルスや細菌などによりフコースの割合が多くなるとネバネバした痰となり、痰が絡むという症状を引き起こします。
免疫グロブリンとは、免疫の中で大きな役割を担っており、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類に分かれています。
痰には、体内に入ろうとしている異物を気管支から分泌される粘液で絡めて体外に出すことで、異物が体内に侵入するのを防ぐ役割があります。
つまり人間の防御反応ということです。
【痰のメカニズム】なぜ痰がでるの?
次は痰が出るメカニズムについて話していきます。
気道粘膜には、線毛上皮内の杯細胞や粘膜下組織にある気管腺・気管支腺が存在しています。
その両方から気道分泌物という粘液が作られています。
気道分泌物は、上皮細胞の線毛運動によって喉頭側、つまり上の方へ運ばれ、気道をきれいにします。
正常時は気道分泌液の分泌量はごくわずかのため、その後気道分泌物は無意識に食道を通って胃へ送り込まれ、痰は出ません。
しかし、ウイルスや細菌などによって気道分泌物量の増加により、食道を通ることが難しくなり、飲みこめなくなります。
それにより痰として出ていきます。
線毛も痰ができるメカニズムに影響を与えています。
線毛とは、その字の通り毛です。
体の中にある毛のことです。
線毛は、表面のネバネバとしたゲル層と深層のさらさらしたゾル層の2つの層で覆われています。
ゾル層の線毛の動きに影響され、その上のゲル層が動いて痰が咽頭側へ運ばれます。
このときの動きは一方方向であり、ベルトコンベアーを想像してもらうとわかりやすいでしょう。
しかし、死んだ細菌を含むことで気道分泌液の粘度が高くなるといった性状の変化によりこの輸送機能(ベルトコンベアーの動き)が低下し、痰をうまく吐き出すことが難しくなります。
それにより、なんとなくすっきりしない感じがし、痰が絡むという症状になります。
【痰で考えられる病気】痰は何かの病気のサイン?
痰のメカニズムについて理解したら、次は痰から考えられる病気について話していきます。
痰は、病気ごとに色調・硬さ・臭いなどに特徴があるといわれています。
ですので、痰の性状を観察することは大切です。
〈白色~透明〉
粘り気のある痰(杯細胞や気管支腺などからの過剰分泌)
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- アレルギー性気管支炎
- 非細菌性感染症
COPDとは、主にタバコの煙による有害物質を長期にわたって吸い続けることで、気道や肺の炎症を生じる病気です。
喫煙歴のある40歳以上の方に多くみられます。
粘り気のない痰(毛細血管の透過性亢進)
- 気管支喘息(ぜんそく)
気管支喘息は、皆さんも既にご存じだと思います。
気道の慢性炎症により咳や呼吸困難といった症状がでる病気です。
意外に知られていませんが、気管支喘息でも痰がでます。
〈痰黄色〉
最もよくみる痰です。この色の場合、細菌性感染症の疑いがあります。
- 気管咽頭炎
- 急性気管支炎
- 急性肺炎
〈緑色〉
緑膿菌などが産出する色素による色で痰に色が付きます。
- びまん性汎細気管支炎(DPB)
- 慢性気管支炎
- 気管支拡張症
DPBは、両肺に広範囲に広がって呼吸細気管支と呼ばれる細い気管支を中心に慢性炎症がみられ、咳や痰が絡むような症状がみられる病気です。
ほとんどの患者さんで慢性副鼻腔炎を合併します。
東アジアに多く見られ、欧米にはほとんど存在していないようです。
〈さび色〉
膿に少量の血液が混じってみえる色をしている痰です。
この痰の中には、腫瘍や肺膿瘍の組織破壊物が含まれています。
- 肺炎球菌性肺炎
- 肺膿瘍肺化膿症
肺膿瘍は、肺炎が重症化・慢性化することで肺の中の肺実質という部分が破壊されて膿がたまることで起こる病気です。
〈ピンク色〉
この痰は、肺循環のうっ血により肺毛細血管から漏れ出た血液と肺胞の空気が混ざることで泡状のピンク色となります。
- 肺水腫
肺水腫は、肺毛細血管から血液だけでなく水分も血管外へ漏れ出てしまい、肺が水浸しになってしまう病気です。
肺が水浸しになると、肺で酸素をしっかりと取り込むことが難しくなりため、重症化すると呼吸器不全に陥ることがあります。
〈茶色、暗赤色〉
この色の痰は血痰です。
肺血管が破れ、気道内へ出血することでこの色を生じます。
血線を引いたものは咽頭性や喉頭性に多く、全体的に赤い痰は下気道性が多いようです。
- 肺がん
- 気管支拡張症
- 肺結核
- 肺梗塞
- Goodpasture症候群
気管支拡張症は、慢性的な気道炎症によって太い気管支が大きく広がり壊されてしまう病気です。
大量の痰を出すということで知られています。
Goodpasture症候群は、肺と腎臓をおかす自己免疫疾患です。
肺胞出血と糸球体腎炎の併発として現れることが最も多いですが、どちらか片方だけという場合もあるようです。
〈赤色〉
この色も血痰です。
肺血管が破れることによる気道内の出血が1回2mL以上のときにこの色の痰がみられます。
- 肺出血気管
- 大動脈瘻
以上が痰の色からわかる病気の具体例です。
今回は、痰が絡む、痰が出るという状態から一歩踏み込んでお話ししました。
しかし、これらはあくまで一般論にすぎません。
診断や治療を必要とする場合は、自己判断で決めつけず早めに医療機関を受診しましょう。
【痰の治療方法】どんな検査をする?どんな薬を飲む?
痰から考えられる病気がわかったので、次は痰の検査にはどのようなものがあるか、痰を治療していくにはどのような薬を飲むのかについて話していきましょう。
検査は必ず行うというわけではありませんが、必要に応じて行います。
痰の検査には、微生物学的検査、細胞学的検査(細胞診)の2つがあります。
まず検査をする前には、うがいをして口内への常在菌の混入を避けます。
そして、咳とともに痰を出させ、それを検査します。
痰の検査方法①微生物学的検査
- 塗抹鏡検
- 培養検査
- 遺伝子検査
塗抹検査とは、採取した痰をプレパラートに広げて顕微鏡で菌数などを観察します。
簡単に素早く行える検査方法です。
検査した後の評価方法は2種類あります。
1つ目は、Miller-Jones分類です。
これは痰の粘液性と膿性を肉眼で評価します。
分類としては、M1、M2、P1、P2、P3の5種類です。
2つ目は、Geckler分類です。
これは顕微鏡で白血球と扁平上皮細胞という細胞の数を数えて評価します。
白血球が多いほど炎症部位由来の可能性があり、扁平上皮細胞が多いほど唾液由来の可能性があります。
白血球数が少なく、扁平上皮細胞数が多い場合、その検体の痰は唾液由来であるといえ、その後に培養検査などすることは少ないようです。
痰の検査方法②細胞学的検査(細胞診)
- 炎症細胞
- 悪性細胞
細胞診は主に癌を見分けるために行います。
次は薬についてです。
去痰薬は、痰の性状を変化させたり、気道粘膜を潤わせ滑りをよくすることで痰を出しやすくする薬です。
あくまで対症療法という位置づけです。
気道分泌促進薬、気道粘膜潤滑薬、気道粘液溶解薬、気道粘液修復薬の4種類に分かれています。
薬による痰の治療法①気道分泌促進薬(ブロムヘキシン)/気道粘膜潤滑薬(アンブロキソール)
この両剤には気道粘液物質を促進することで痰の粘度を下げ、線毛運動を促進させて痰などの異物を出しやすくし、さらに肺サーファクタントの分泌促進により気道の滑りをよくします。
肺サーファクタントとは、気管支や細気管支内に付着した痰などを剥がしやすくする表面活性物質です。
薬による痰の治療法②気道粘液溶解薬(アセチルシステイン、エチルシステイン、メチルシステイン)
これは痰を小さくして粘度を下げ、痰を出しやすくします。
痰が大きくなってしまう原因には、ジスルフィド結合と呼ばれる結合の関与があります。
気道粘液溶解薬にはこのジスルフィド結合を切断し、構造が小さくなることで痰を出しやすくします。
薬による痰の治療法③気道粘液修復薬(カルボシステイン、フドステイン)
これは杯細胞の過形成を抑えることで粘液の分泌量を減らし、シアル酸の割合を増やします。
つまり粘液の組織のバランスを調整し、正常化することで痰を出しやすくします。
【排痰の方法】上手な痰の出し方
皆さんは、痰が上手く出せないという経験はありませんか?
ここでは痰の上手な出し方について話していきます。
体位排痰という痰を出しやすい姿勢になることで痰を喉元に集めて出す方法があります。
痰がたまっている部分を上にすることで、喉元に流れ落ちてきてきます。
例えば、胸・肺の前面であれば仰向け、背中であればうつぶせ、左側背面であれば右下の半うつぶせになるといった具合です。
重力を利用した方法になりますが、デメリットは時間がかかることです。
別の方法としては、ハフィングと呼ばれる方法もあります。
これは、体位排痰などで喉元に上がってきた痰を出しやすくする方法です
少し多めに空気を吸い込み、声を出さずに「ハッ、ハッ、ハッ」と勢いよく息を吐きます。
これを数回ほど繰り返した後に咳をして、痰を出します。
咳はエネルギーを要するので、3回程度に収めてください。
また、上記と似ている方法にはなりますが環境再生保全機構が上手な排痰方法を動画で説明しています。
痰が上手く出せずに困っているという方は一度見てみてください。
自力では痰を出すことが難しいという方には、痰を出しやすくする器具を使うという方法があります。
その一つに、アカペラという器具があります。
これは、器具内のバルブ圧力を調整することで息を吐くときに気道内に圧力と振動が発生し、それによる気道の広がりが痰を出しやすくします。
痰の出し方はこのように何点かあります。
自分にあった方法を見つけましょう。
痰が出るのを予防!日常でできるちょっとした工夫とは?
痰の予防法①室内の加湿
空気が乾燥することで喉の粘膜を刺激して、痰が絡む・痰が出しづらいといった症状が現れやすくなります。
冬だけではなく、エアコンを使う夏も乾燥は起こります。
しっかりと加湿しましょう。
痰の予防法②喫煙
タバコを吸っていると痰が絡むという人もいるかと思います。
これはタバコの煙に含まれている有害物質を吸い続けることで気道や気管支が炎症を起こし、痰が増えるためです。
タバコを吸いすぎるとCOPDのリスクも高くなるので、禁煙がよいでしょう。
痰の予防法③痰を切る食べ物
痰を切るのに良いとされちる食べ物は、大根や銀杏、杏、レンコンなどがあげられます。
しかし、きちんとしたエビデンスはなく、昔から伝えられているということにすぎないようです。
上であげた食べ物だけを偏って食べるのではなく、バランスのよい食事を心がけましょう。
まとめ【もうこれから「痰が絡む」のも怖くない!】
今回は痰が絡むというのはなぜ起こるのかについて、痰の役割、検査方法、薬などとともにお話ししました。
痰について詳しく理解できたのではないでしょうか。
- 痰は水、ムチン、免疫グロブリンでできている粘液で、異物侵入を防ぐ役割がある
- 気道分泌物量の増加、粘度の増加などの性状の変化により嚥下が難しくなることで痰がでる
- 痰の色から病気を推定できる
- 去痰薬はあくまで対症療法にすぎない
- 痰の出すときのポイントは、重力と「ハッ、ハッ、ハッ」という吸い方
痰が絡むのが続くときには自己判断で病名を決めつけず、早めに医療機関を受診しましょう。